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千葉家庭裁判所八日市場支部 昭和51年(少)695号 決定

少年 Y・R(昭三一・二・一〇生)

主文

少年を特別少年院に一年三ヵ月間(昭和五一年一二月一八日から昭和五三年三月一七日まで)送致する。

事実

少年は、昭和五〇年七月三〇日、千葉家庭裁判所八日市場支部において、道路交通法違反保護事件により千葉保護観察所の保護観察に付され、その保護観察中、

1  昭和五〇年保護観察処分、同年八月二六日単独で当庁に出頭、遵守事項を誓約、担当者を指名、保護観察を開始。

2  本人は、開始前から八日市場市内の母の弟経営の○○自動車整備工場修理工として通勤稼働し、担当者との接触状況もよく、特に問題なく経過していた。

3  ところが、本年に入つてから、以前あつたシンナー遊びが激しくなり、本年二月に同工場をやめ、千葉市○○の土建屋に一〇日程働いた後、家で徒遊、シンナー遊びに耽り、三月末から母の紹介で八日市場市内○○運送株式会社運転助手を約一ヵ月やつてやめ徒遊、五月中旬頃から同市内○○農園で植木職手伝をしたが、行つたり行かなかつたりの状態が続き夏頃からは殆んど働かず徒遊し、シンナー仲間と交遊したり単独で自宅又は外でシンナー等の吸引に耽溺しており、母の衣類等を入質したり、母に暴力を振つたりすることもある。

4  この間、担当保護司の再三の指導もきかず、本年に入つてからは本人の来訪は全くなく、主任官の再三の呼出指導にも行状は好転せず、更生への誠意が認められない。

旨の保護観察の経過および成績の推移によれば、少年は(1)正業につかず、徒遊し、生活が不安定であること。(2)シンナー等の吸引をかさね、母の衣類等を入質したり、母に暴力を振つたりすること。等の行為は、少年法第三条第一項第三号イおよびニに該当し、その性格および環境に照らし、近い将来刑罰法令に触れる行為をするおそれがあるとして、所轄保護観察所の長から昭和五一年一一月三〇日犯罪者予防更生法第四二条第一項により当裁判所に通告されたものである。

そこで、関係記録および少年の当審判廷における供述によつて検討してみると、通告にかかる事実を認めることができる。

少年の要保護性

そこで、少年の要保護性について上記関係記録、少年に関する鑑別結果通知書、家庭裁判所調査官の関係報告を総合して考慮すると、

1  少年の精神状況は、知能はIQが八五で準普通域にあり、平均よりやや低い水準にある。

物事の判断は衝動的一貫性がなく、軽い気持で目先の快楽刺激を求めて即行的に行動してしまう。社会的訓練が充分なされておらず、わがままで自分の思い通りにならないとカッとなりやすいし、人に馬鹿にされたと感じるとすぐ興奮してしまう傾向にある。内面の悩みとか無力感を抑圧し、薬物、交友等終始新らしい刺激を求めてそれに逃避してしまい、根本的な自己の問題が解決されず、建設的な意欲がないまま表面的な気楽さで気ままに行動している。精神障害は特に認められない。

2  少年に対する鑑別の結果、その総合所見として、

(1)  少年は一六歳から無免許運転や有機溶剤吸引などで二度にわたる保護観察処分を受け、現在二〇歳を既に超過しているにも拘らず、また長期間の在宅指導にも拘らず、保護司の指導を真面目に受け、更生しようとの意欲に欠け、また、それに服さず、在宅のままでは指導ができない状態に至つている。

シンナー吸引も一五歳からで、既に常習化した段階にあり、心理的な負担から逃避する傾向から脱却できなくなつており、精神的に安定する場がない生活が続いていた事から固着化するにいたつている。

少年の目先の快楽刺激を求めて軽率な行動をする性格形成には家庭負因によるところが大きい。即ち、家庭は崩壊した状態にあり、母には指導力がなく、少年の気持を充分とらえてのきめ細かい指導ができず、親密性がなく、幼時より基本的な躾、指導は殆んど行われていない状態である。

職業面においても、健全な職業観がなく、数ヵ月程度で転々としており、真面目に働き、安定した生活をしようとする意欲に欠け、自律した職業生活が全くできていない。

(2)  少年には、専門的枠組の中で、基本的な生活訓練のやり直しを行い、規律正しい生活習慣を確実に身につけさせる必要があり、併せて、健全な職業観を身につけさせ、一つの仕事に定着して持続させる訓練も必要で、収容保護し、矯正教育を行うのが妥当である。

旨指摘されている。

3  昭和五〇年六月父が死亡した後、家族は少年と母との二人だけである。母は病弱で、幼少期少年の養育をしておらず、実の親子の親密な感情関係は形成されていない。母は気が弱く、小さなことにくよくよとし、少年のシンナー吸入に対し全くといつていい程打つ手がない状態である。少年は実父が死亡した後、母に対しては「実の母でない。」といつた観念を持ち、兄弟もいないところから、孤独で自らの存在感をおびやかされている状態である。

以上のほか、少年および母Y・K子の当審判廷における陳述を勘案すると、少年に対し、もはや保護観察は妥当ではなく、主文に示した程度の保護処分の必要性が認められる。

よつて、少年法第三条第一項三号、第二四条第一項三号、少年審判規則第三七条第一項後段、少年院法第二条第四項を適用して主文のとおり審判する。

(裁判官 島崎昭二)

理由

抗告審(東京高 昭五二(く)九号、昭五二・一・二五 第六刑事部決定)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、申立人提出の抗告申立書に記載のとおりであるから、ここにこれを引用するが、その要旨は、原決定には著しい処分の不当があるというに帰するものである。

そこで、所論に鑑み、本件記録、本案の少年保護事件記録(原庁昭和五一年(少)第六九五号)及び少年調査記録を検討するに、原決定が理由として説示するところは優に首肯できるものというべく、原決定のした処分に著しい不当があるものとはとうてい認められないから、本件抗告は理由がない。

よつて、犯罪者予防更生法四二条二項、少年法三三条、少年審判規則五〇条により本件抗告を棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 木梨節夫 裁判官 奥村誠 佐野精孝)

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